1.スコアリング(患者評価)について
整形外科では患者さんの状態評価にスコアリングを用います。
スコアリングとは文字通り点数付けです。
アンケートをとったり、関節の動く範囲、筋力をみて、それぞれの患者さんの身体機能を評価します。
その中でも有名なのはJOAスコアで、日本整形外科学会(JOA)が制定した身体機能の判定基準によって脊椎・肩・肘・手・股関節・膝関節・足関節・・といった各部位の身体機能を評価して点数にします。
具体的なスコアリングツールがこちらにあるので興味のある方は参照してください。
①.スコアリングをするメリット
各部位の身体機能を点数付けすることには以下のようなメリットがあります
患者さん同士の状態を比較できる
例えばAさんとBさんが同じ骨折をしたとします。
そして違う種類の治療を受けたとします。
治療を受けた結果を
といって比較してもわかりません。
そのため、同じ評価基準で採点し、
とすると、どちらの患者さんの機能がよいのか客観的によくわかります。
(実際は複数患者で評価します。)
同じ患者さんの治療前後の状態を評価できる
前と同じ例を考えましょう
AさんとBさんが同じ骨折をしたとします。
そして違う種類の治療を受けたとします。
と議論をしても比較できません。
これをスコアを用いることで
とすると、後者の治療の方が効果がありそうだということがわかります。
(実際は複数患者で評価します。)
2.患者立脚型評価と検者立脚型評価
スコアの種類は大きく患者立脚型評価と検者立脚型評価があります。
ざっくりいうと
患者立脚型評価 = 「患者さんが自分自身の状態を評価する」
検者立脚型評価 =「医者の評価」+「患者の評価」
という評価方法です。
以前は検者立脚型が主でしたが、
「患者の生活が改善したかどうかが最大の結果(アウトカム)」
という考え方から、近年は患者立脚型が広くもちいられるようになってきました。
ほとんどの患者立脚型評価は
「アンケートをとるだけで点数がつけられる」
形式です。
1.検者立脚型評価
① 検者立脚型評価とは
JOAスコアは日本整形外科学会が制定した身体機能の判定基準で、代表的な検者立脚型評価です。
「医者の評価」、具体的には
- 関節可動範囲
- 画像所見
- 身体所見
といった指標と
「患者さんの症状」
の2つからスコアが評価されます。
具体的には
こんな感じです
JOAスコアの例(肩関節)
このような形式の評価にはメリットとデメリットがあります。
②.検者立脚型評価のデメリット
・スコアと結果が食い違う
「治すのは患者であってレントゲンじゃない」
整形外科の世界でよく言われる言葉です。
内科でいうと
「治すのは患者であって血液検査データ(数値)ではない」
ところでしょうか。
つまりは
患者さんがよくなったと思ってくれないと、いくら可動域やレントゲンがよくてもそれは
「成績の悪い治療」
ということになります。
検者立脚評価には医者の主観的評価が多くふくまれているため、患者の主観が十分に反映されているとは言い難いのです。
・スコアをとるのに手間がかかる
患者のアンケートだけで完結する患者立脚型評価と違って、
身体所見や画像所見が含まれる検者立脚評価では
「計算に必要な所見をとり忘れる」
ことが多々あります。
一度忘れるとスコアを記録するためには、患者さんを呼び出して診察させてもらったり、検査をさせてもらったりしないといけません。
手術前の所見を取り忘れているともう計測できなくなってしまいます。
若手にとっては
「スコアをとることで一通りの身体所見を覚える」
というメリットにもなりますが、ずっと漏れなく所見を取り続けるのは正直大変です。
③検者立脚型評価のメリット
・評価点数から患者さんの状態がイメージしやすい
数値化される評価が多いというのが最大のメリットです。
関節の動きははっきりと角度が出ますし、検査データも数字で表されています。
そのため、評価の値を見ることで、患者さんの状態をイメージすることができます。
3. 患者立脚型評価
患者さんの主観を全面的に反映し、アンケートで完結できる評価です。
たとえば、手の評価項目「DASHScore」は以下のようなアンケートに患者さんが答えるだけで評価点数が計算できます。
手の評価項目 DASHスコア(日本手外科学会のホームページより)
上記のような質問が38項目続きます。
メリット、デメリットは検者立脚型評価の反対になります
①患者立脚型評価のメリット
患者さんの主観が反映される
これが最大のメリットです。
「結果(アウトカム)は患者さんの症状の改善である」
という大原則を反映できる評価方法と言えます。
スコアを取るのが簡単
ほとんどのの患者立脚型評価が
「患者さんが記入するアンケートのみで採点可能」
です。
「診察後の待ち時間でアンケートも記入してください。」
の一言で臨床スコアのデータを蓄積していくことができます。
②患者立脚型評価のデメリット
主観的評価しか反映されない
アンケート結果のみで採点できる反面、
他の
- 可動域
- 検査所見
などはスコアに反映されていません。
これらを補うような選択項目も挙げられていますが、直接医者が客観的に可動域やレントゲンを計測する検者立脚型評価にくらべ、
「具体的に手術でどこが改善したか」
ということがわかりづらいです。
患者間で評価が違う
当然ですが、同じ症状でも患者さんそれぞれで捉え方は違います。
普段スポーツをやるひとでしたら、
「もっとよくならないと困る」
と感じる症状でも、
やっと歩ける人であれば
「ここまで良くなれば大満足」
と感じることもあります。
そのため、
異なる患者さんの症状を比べるときには、正しい評価ができているか疑わしい
ということが起こります。
同じ患者さんの手術前後の症状を比較するときなどはこの問題は起こりにくいといえます。
3.新しいJOAスコア -患者立脚型評価の普及-
日本整形外科の評価基準として知られるJOAスコアの新しい試みとして、
患者立脚型評価の開発が進んでいます。
- 頚椎機能評価のJOACMEQ
- 腰椎機能評価のJOABPEQ
を始めとして
- 股関節評価のJHEQ
- 肩関節のShoulder-36
- 肘関節のPREE-J
- 手のHAND-20
なども開発され、検者立脚型評価との整合性が検証されつつあります。
世界的にも手のDASH Scoreや膝のKOOS, 腰痛評価のRMDQやQOL評価のSF-36などは依然として広く用いられており、今後も患者立脚型評価を使用する流れが中心となりそうです。
Webスコアリングのススメ
すでに多くの病院で患者アンケートによるスコア評価が導入されています。
しかし、
ほとんどの病院でが紙ベースで行われているのが現状です。
紙カルテにファイルで閉じる
スキャナで電子カルテに取り込む
色々な保存方法がされていますが、圧倒的に便利なのは
「表データでの保存」です。
具体的にはエクセルで開ける「.csv」形式での保存がこれにあたります。
本ページでもエクセル保存できるようなスコアリングシートを作成しています。
こういったWebアプリによるスコアリングは、タブレットやスマホでアクセスすることで簡単にスコアを計算することができます。
ワクチン予約など公共の手続きもどんどんスマホ使用が前提となっています。
まずはデジタル、無理なら紙ベースという流れでもよいでしょう。
でもファイルデータを統合するのが大変じゃないですか?
一度csvファイルにしてしまえばあとはPythonやRといったプログラミングで何千、何万あるデータでもすぐに統計処理やグラフでの可視化が行えます。
技術磨きに集中できるというわけです。